『ミスター・フォックス』
メアリーは若く美しい娘で、求婚してくる男が両手の指に余るほどいた。
メアリーにはふたりの兄がいて、どちらもりっぱな兵士だった。
また、この美しい妹を大切にしており、こんなに多くの男の人のなかから、いったいどんな相手を夫に選ぶかといつも気にかけていた。
その中に、ミスター・フォックスという立派な紳士がいた。
若く裕福な男だったが、彼の素性を誰も知らなかった。
しかし、とても愛想のいい人だったので、メアリーは彼と婚約をする。
ところが、ミスター・フォックスは花嫁を迎える自分の屋敷や、その見事な家具、調度品のことはよく話すものの、いつまで経っても見せてやろうとは言いださない。
まして、兄たちを招待する気などはまったくないらしい。
ミスター・フォックスの振る舞いを怪しく思ったメアリーは、結婚式前にミスター・フォックスの屋敷をこっそり訪れることにした。
ミスター・フォックスと兄達が弁護士のところに出かけている間、メアリーは身支度を整え、屋敷に向かって出発した。
あちこち探し回った末、メアリーはついにミスター・フォックスの屋敷を見つける。
高い城壁と深い堀に囲まれた、立派だがどこか薄気味悪い屋敷だった。
城門のアーチには文字が彫り込んであった。
『勇気を出せ──勇気を出せ。』
メアリーは勇気を出して門をくぐった。
そこは広々とした庭だった。その隅にまた別の門があった。
アーチにはこう彫り込んであった。
『勇気を出せ──勇気を出せ。
だが勇気を出しすぎるな』
アーチの先は大広間であった。
人気もない静かな広間に階段が続いている。
メアリーは階段を登った。
今度は広い廊下に辿り着く。
片側は日差しに照らされた庭を一望でき、もう片側の壁には狭い扉がついていた。
扉の上にはやはりこんな文句があった。
『勇気を出せ──勇気を出せ。
だが勇気を出しすぎるな。
心臓の血が凍るといけないから』
メアリーはその扉を開けた。
狭く暗い廊下が続いている。
その廊下を辿っていくと、小さく明かりが漏れる一室があった。
隙間から覗き込み、メアリーは仰天した。
かくしてそこにあったのは、
何本もの蝋燭に照らし出された、
血まみれのウェディングドレスに身をつつんだ
花嫁の骨や死体であった。