古びた手記

【最も古いページ】

私は今日、やっとナンシーと結ばれることができた。
結婚式はノルン教会で、慎ましくはあったけれど、私たちにできる範囲で盛大に行ったと思う。幸せだ。

ここまで本当に長い道のりだった……
仲間と力を合わせて事業を成功させたおかげで今の私たちがいる。
ロレンスとは彼女を取り合ったこともあったが、今では良い友人であり、ビジネスパートナーだ。
彼と出会えたこと、ナンシーを取り合ったからだけど切磋琢磨し合えたことは私の宝物だ。

そう、今度大きな商談を持ちかけられている。
是非とも彼にも協力してほしいが、慎重派のロレンスはきっと断わってしまうだろう。
できれば、彼とは今後も協力しあって行きたいが、前途多難かもしれない。

【喜びに満ちたページ】

ナンシーが私の子を産んでくれた。男の子だ。
私に似てハンサムで、ナンシーに似て優しい目をしている。
ロレンスもすぐに駆けつけてくれた。
生まれたばかりの息子を見て、彼の氷のように冷たい瞳が一瞬潤んでいた。

事業も順調に進んでいる。
やはりあの商談を進めて正解だった。
何事もチャンスが来たら飛びつく性分だったのが功を奏したみたいでよかった。
ナンシーには苦言を呈されたが、まぁ結果がついてくれば問題ないだろう。

少し気がかりなのはロレンスの会社の売り上げだ。
他社の状況だから詳しくはわからないが、大丈夫だろうか?

【涙に濡れたページ】

なんでだ。どうしてだ。
ナンシーがいなくなった。
どうして帰ってこないのかもわからない。
みんな家出だっていうけれど、生まれたばかりの赤ん坊を置いていくなんて有りえるか?
いや、ナンシーはそんな人ではない。
なら、どうして?

ロレンスにも、ナンシーの居場所を知らないか聞いた。
ああ、なんで私はこんな些細なことを書いているのかわからない。
ロレンスは知らないといった。
それでいいじゃないか、彼は知らないのだ。

ロレンスの両手には、たくさんの引っかき傷があった。
だから何だというんだ。

ナンシーが帰ってくることはなかった。

【血濡れたページ】

ナンシーが遺体で見つかった。
何者かに乱暴され、それで殺されたらしい。
うん、分かっている。
今、頭の中がすごく綺麗だ。
心の中には、懺悔と後悔の念しか湧いてこない、憎しみすらないのだ。

犯人はおそらくロレンスだ。間違い無い。
彼がナンシーを殺す理由など一つしかない……
理由は至極簡単だ。
私の無関心さが、ナンシーを死なせ、ロレンスを殺人犯に仕立ててしまったのだ。

私が、ナンシーにもっと注意を向けてさえいれば、こんなこと防げたのではないか?
私が、ロレンスの気持ちをもっと考えていれば、彼が人を殺めることなどなかったのではないか?
しかし、いくら後悔したとしても過ぎ去ってしまった。
私は馬鹿だ。

【決意に満ちたページ】

伝説を信じ私は銀のコインを見つけ、そして手にした。
それはとても綺麗なコインだった。
なるほど、このコインこそが挑戦できるチケットに他ならないのだろう。

場所も言葉も知っている。
最も古いカジノのテーブルで、運命神の本当の名前を言えばいい。
ならば、私の力でナンシーを蘇らせることだけが、私にできる唯一の償いになるだろう。

必ず、私は勝ってみせる。
神様だろうがなんだろうが、私はチャンスを見逃したりしない。

【懺悔に彩られたページ】

神は私の願いを叶えれば息子の命はないという。
あああ、なんて残酷なのだろう。
息子を手放すことなどできるはずがない。

代わりに神は運命を変える4つの道具をくれた。
”運命を操作することの出来る運命の輪”
”運命を覆すことの出来る球体”
”あらゆる運を避けることのできる翼”
”幸運を消費し続ける壺”

しかし、どの物品も死者を蘇らせてはくれないらしい。
私はこれらを子や孫に託していこうと思う。
彼らがこの物品で幸せになるなら、それが一番だ。

しかしこの球体は……これだけは、誰にも託してはいけない。
神から物を隠したり、本質を別のものに移す魔法の呪文を教わった。
これで隠せればいいのだが……